「不屈」のスピリットで一歩ずつ極めるピアニスト、大瀧拓哉
池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
大瀧拓哉は長岡(新潟県)から名古屋(愛知県立芸術大学)を経てヨーロッパに留学した。2010年代末の東京に着地した際には地縁血縁がまるでない上、直後に起きた新型コロナウイルス感染症の世界拡大(パンデミック)で先行きを危ぶまれたが、渦中の2020年8月24日、文化庁・日本演奏連盟主催で実現した新進演奏家育成プロジェクトのリサイタル(東京文化会館)の大成功により、第一線に躍り出た。その時のメインの曲目、アメリカの作曲家フレデリック・ジェフスキ(1938~2021)の代表作《不屈の民》変奏曲は以後、大瀧のトレードマークとなり、2024年にはもう1つの代表作《ノース・アメリカン・バラード》全6曲とともに、2枚組のディスクも制作した。
さらに今回、静岡音楽館AOIの「2026-27年度レジデンシャル・アーティスト」就任を記念したリサイタルでも、《不屈の民》を弾く。組み合わせはJ.S.バッハの《フランス組曲第5番》と、AOIが初代音楽監督の間宮芳生(1929~2024)に委嘱した《エチュード Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ―ピアノのために》。プログラムに眼を凝らせば凝らすほど、大瀧のピアニストとしての基本姿勢が鮮明に浮かび上がってくる。それは、音楽の歴史の基本にどこまでも忠実で、作品の価値に全幅の信頼を寄せる再現芸術家の矜持ともいえる。
ジェフスキのディスクの解説に大瀧自身が記した言葉を引用する。「ベートーヴェンやショパンと同様に、またラフマニノフが優れた自作自演の録音を残していながらも新しい解釈が出続けているのと同様に、ジェフスキの作品も100年、200年経ってもさらに新しい解釈、新しいスタイルで演奏されるであろうと、私は信じ続けている」。作曲後半世紀を過ぎた現在も、「アンガージュマン(政治参加)の作曲家&ピアニスト」の一語で片隅に追いやられがちなジェフスキを西洋音楽史、とりわけ鍵盤音楽史のメインストリームに載せ、より多くの聴き手を獲得、後継世代のピアニストのレパートリーにも定着させようと努める大瀧のスピリットもまた、「不屈」なのである。
「音楽の父」と呼ばれるJ.S.バッハはチェンバロ、オルガン、クラヴィコードなど当時のあらゆる鍵盤楽器に通じたヴィルトゥオーゾ(名手)であり、今日のグランドピアノをはじめとする楽器の進歩まで頭に入れた未来志向の音楽を書いた。間宮はヨーロッパの一角に位置しつつ、民族的にアジアと深いつながりを持つフィンランドなどの音楽家と親密な交流を持ち、西洋音楽とアジアの音楽との接点を究めた。大瀧が奏でるバッハと間宮、ジェフスキを一体に受け止めた聴き手もまた、鍵盤音楽の過去と現在、未来への新たな視点を得るに違いない。
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▶ レジデンシャル・アーティスト大瀧拓哉さんよりメッセージ |
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| 大瀧拓哉(ピアノ) Takuya OTAKI(Pf.) ©matron2024 ![]() ©藤本史昭 | 2016年、フランスで行われた近現代の作品のみで競われるオルレアン国際ピアノコンクールで優勝。その後フランスを中心にヨーロッパ各地の音楽祭に出演し、ソロ・リサイタルや現代音楽のアンサンブルなどを行う。2020年に日本演奏連盟主催のリサイタルを東京文化会館小ホールで行い、「音楽の友」誌にて「いかに作品の聴きどころを押さえ、超大作の構成を浮き彫りにし、最も大切なことに、奏者の大胆にして精緻、作曲家に忠実でありながら自己アピールにも優れた非凡なピアニズムを印象づける演奏であったか」と高い評価を得る(萩谷由喜子評)。2017年、フランスでデビューCD『ベラ・バルトークとヴィルトゥオージティ』をリリース。2024年には『フレデリック・ジェフスキ〈不屈の民〉変奏曲/ノース・アメリカン・バラード全6曲』をリリースし、「レコード芸術ONLINE」で推薦盤に選ばれるなど、各誌で高い評価を得ている。 現在、東京を拠点にクラシックから現代音楽の初演まで幅広く演奏活動を行う。サントリーホール サマーフェスティバル、神奈川県民ホールC×Cシリーズ、両国アートフェスティバル、三島現代音楽祭など、多くの現代音楽祭に出演している。 愛知県立芸術大学、同大学院を首席で卒業、修了。ドイツ国立シュトゥットガルト音楽演劇大学大学院、アンサンブル・モデルン・アカデミー(フランクフルト)、パリ国立高等音楽院第三課程現代音楽科修了。2020~24年度、愛知県立芸術大学非常勤講師。現在、東京音楽大学非常勤講師。静岡音楽館AOI 2026-27年度レジデンシャル・アーティスト。 |
